【「子連れ狼 冥府魔道」三隅研次 1973】を観ました
おはなし
黒田藩のお世継ぎ騒動に巻き込まれる拝一刀(若山富三郎)。いっぽう、大五郎は大五郎で、思いっきりシバかれてしまい……。
若山富三郎版「子連れ狼シリーズ」の第5弾。サブタイトルの割には冥府魔道度の少ない作品です。というか、正確に言うと捨てネタを集めて、無理やり一本をでっち上げたような作品。個々のエピソードがバラバラな感じで、ちょっと残念。
ゴトゴトと乳母カーを押して歩いている拝一刀(若山富三郎)は、滝に打たれている修験者らしき男を見つけました。そして、男のものでしょうか、横に置いてある笠の中には、牛頭馬頭の描かれた布きれが。おお、これは子連れ狼を呼び出すヒミツのサインじゃありませんか。さっそく滝壺に降り、男に話しかける若山先生。
「卒爾ながら、その笠に下げたる牛頭馬頭の絵。子連れ狼をお探しか?」
男(戸浦六宏)はクルっと振り返り言います。「お手前が?」。「そう呼ばれておる」と若山先生が返事をした瞬間、戸浦六宏は斬りかかってきましたよ。しかし、若山先生の条件反射でサクっと斬りかえされてます。かなり弱めです。
「さ、さすがは子連れ狼こと元公儀介錯人、拝一刀どの。百両ござる。一殺、五百両と聞き及ぶ。刺客引き受け料の、これは5分の1。お受け取り願いたい」
「刺客依頼のための腕試しか」。そうそう、よくいるんです。無謀なチャレンジしてくるやつが。
「お手前を探し出すため、藩中の手練れ16名が、このように牛頭馬頭の絵をぶらさげて国元を発し、東海道および水路・海路に散ってござる。それがしは筑前、黒田家中にてあや、綾部右近と申す」
さらに、刺客引き受けの条件である「裏の事情」の説明も、残り4人の侍が若山先生に勝負を挑み、負けたら百両ずつ払って、説明するらしいです。それも、次の侍はあそこにいるよ!みたいな情報はゼロ。会えるかどうかは運しだい。勢い余って即死させたら、はいソレマデヨ。なんていうか、不確実すぎますよね。黒田家には、剣の手練れはいても、頭脳の手練れはいなかったんでしょうか。
ま、ともあれ目印になるという、オシャレな数珠ネックレスを渡して戸浦六宏は死に、若山先生は再び、ゴロゴロと乳母カーを押しながら旅を続けるのです。ゴロゴロ。ゴロゴロ。とある門前町にやってきた若山先生。寺院の塀に、ひとりの乞食がいますよ。もっとも、笠に牛頭馬頭の絵をぶら下げてますけど。これは、もしかして。チャリンと小銭を欠け茶碗に投げ入れると、案の定、乞食が話しかけてきました。「それがしは綾部右近と同じく、黒田藩近習頭、泉数馬と申す」。いや、どうみても、その顔は志賀勝。泉数馬なんてコジャレた名前が「まったく」似合ってないんですけど。ともあれ、そのカズマは伝書バトをカゴから離すと、「次なる刺客依頼人への連絡でござる」と言うのでした。ははあ、なるほど。手練れ16名のうち、志賀勝は単なる連絡要員なんですね。なるほど。
ということで、志賀勝から連絡をうけた刺客依頼人(石山律)が登場。「黒田家中、最上周助。未熟僭越ながら腕試しさせていただく。それがしに勝たれた場合は、その百両をお収めの上、お手数ながら数珠をかけられ、先に進まれい」「承知」。とりゃー、二刀流で斬りかかる石山律ですが、若山先生は得意の卑怯な手、刀投げを。えいっ。ひゅぅーグサっ。「筑前黒田五十二万石のご藩主は五歳の姫君でござる」「もし、このこと、ご公儀に知れればお家は断絶。姫を姫を、くっ」ガクっ。いや、姫をどうしろと。殺せばいいの?
夜、若山先生がたき火でトウモロコシを焼いていると、小柄(こづか)がパシュパシュと飛んできて、トウモロコシにぶっ刺さりました。「三人目の御仁か」と聞く若山先生に、男(内藤武敏)は答えます。「黒田家中、馬渡八郎と申す。百両はそれがしの懐中にござる。勝ち取られよ」。「承知」と言いつつ、ヤリを突き出す若山先生。うわっ、内藤武敏、一発でやられてるよ。やはり劇団民芸系ではアクションはムリだったか。
ま、それはともあれ、たき火に倒れこんだ内藤武敏は言います。「命が尽きるまでは、まだ間がござる。刺客依頼の裏の事情を息の絶えるまでお話いたそう」。いや、それより燃えてます。体が燃えてますってば。そんな燃える男、内藤武敏が語るのは、こんな話。元藩主が側室を寵愛し、どうしても、側室との間に生まれた、まだ五歳の子に後を継がせたくなった。と、ここまではよくある話だけど、問題は正妻との間にすでに嫡男がおり、側室との子は娘だったこと。そのうえ、元藩主は近所のお寺のお坊さん・慈恵和上に、娘を藩主にするというお墨付きを渡してあるとか。いやもう、自爆もいいとこな行動です。なにがしたいのか分からない。
さらに旅を続けている若山先生。今度は、向こうから男(山城新伍)が歩いてきましたよ。すわ、こいつが刺客依頼人、と思ったら、「お待ちなさい。この先の池に物騒な浪人がおりやす。箱車を押した子連れの浪人を待ち伏せているらしいんで。もし、旦那を狙ってるんなら、及ばずながら、あっしが助っ人させてもらいます」とか親切なことを言っています。おかしいなあ。この山城新伍は単なる親切な通行人なのかなあ。
山城新伍の情報どおり、池のほとりに刺客依頼人(天津敏)が待っていました。「黒田家中、菊池弥門と申す。ご貴殿、元公儀介錯人、拝一刀どのと申さば水鴎流の名手と聞き及ぶ。その奥義たる波切りの太刀なるものを見せてはいただけまいか。この目でしかと見届けておきたいのでござる」。しょうがないなあ。ちょっとだけだよ。ずぶずぶと池に入っていく二人。さあ、抜刀します。上段に構える天津敏に対し、徐々に腰を沈めていく若山先生。右手に持った刀も、今や水の中。と、天津敏が斬りかかろうとした瞬間、意外や意外、若山先生の刀が左側から飛び出しました。不意をつかれて斬られる天津敏。そう、波切りの太刀とは水中で、こっそり刀を持ち帰るという、なんていうかトホホな奥義だったみたいです。「お墨付きは慈恵和上が……」と天津敏は苦しい息のもと、語りだします。その語るところによれば、元藩主が尊崇していた慈恵和上とは、実は幕府のスパイマスター。そして鎌倉にある寺の落慶法要を名目に、すでにお墨付きを持って江戸に向っているとか。
ブクブクと天津敏が沈んでいくと、そこに、親切な山城新伍がやってきましたよ。「お疲れでしょう。どうです、良かったらお茶でも」「いただこう」。あ、お茶を飲んだ若山先生が、ズッテーンとひっくり返ってます。うむ、あまりにお約束な展開だ。山城新伍は笠から折りたたまれていた牛頭馬頭の絵を「わざわざ」引っ張り出し、「いかに拝一刀どの。やはり隙がござったな。キレンゲツツジとトリカブトの猛毒を混じた茶を飲んだ以上、もはや助かるすべはない。われらあらゆるすべで貴殿を試す所存でござった、お許しくだされ。筑前黒田家中、小石勘兵衛、とどめを仕る」グサッ。と、刺されているのは山城新伍の方。そして若山先生はプッとお茶を吐き出しています。さすがです。
「じ、慈恵和上を斬って、お墨付きを。お墨付きは慈恵和上が手に持つ経筒の中に」くわっ。
ということで、旅の途中の慈恵和上を追って、とある大寺のある町にやってきた若山先生。さっそく、慈恵和上がお経をあげているところに忍び込みます。刀のつかを握り、「お命頂戴仕る」と言った瞬間、しかし、BGMがヘンなサイケサウンドに。ぬぬぬ、刀が抜けないっ。と、慈恵和上(大滝秀治)が、いかにも大滝秀治な感じで言い出しましたよ。
「無であるものを斬ることはできぬ。主観と客観をひとつにし、己を忘れ、無と己をひとつになし、内外打成の一片となったこの身を斬ることはできぬ。仏に会うては仏を殺し、父母に会うても、これを殺す。しかして無じゃ。ただ刺客道の無門関たらん」。はあ?なに言ってんの、って感じなんですけど、とにかく大滝秀治の、あの錆びたような声で言われると、なんかスゴイ気がしてくるのが不思議です。
そんなこんなで、若山先生がスゴスゴと逃げ帰っている間、大五郎は乳母カーを抜け出し、町の探索に励んでいます。折しも夏祭りの真っ最中。ろくろ首などの見世物、金魚釣り、子供の喜ぶもの満載です。と、ここでもう一人というか二人。夏祭りを満喫している者がいました。江戸から来た美貌の女スリ、早変わりのお葉(佐藤友美)と、その子分、ほくろの留吉(潮健児)です。あちらこちらで財布をスリとっては、後ろ手で、子分の潮健児に渡していく佐藤友美。これなら、仮に騒がれても肝心の財布を持っていないんだから、安心というものです。しかし、この町には、そんな佐藤友美をはるばる江戸から追ってきた、名岡っ引き・心の字の洗蔵(山内明)もいたのでした。って、この映画は、何の映画だっけ。
さて、快調にスリまくっている佐藤友美ですが、侍からスった財布を潮健児に渡そうと思ったら、アレレいないわ。そう、常に背後にいて財布を受け取るはずが、立ちションベンをしてて、いなかったのです。むきー。さらに間の悪いことに、侍がスラれたことに気づき、「あの女、スリだあ。スリだあ」と叫びだしました。その声を聞きつけ、岡っ引きの山内明までダッシュしてきます。ど、ど、ど、どうしよう。路地を逃げまくりながら、あたりを見回す佐藤友美。あっ、あんなところに子供が。それもトロそうなのが一匹。早速、大五郎に駆け寄り財布を握らせ、佐藤友美は言います。「坊や、イイ子だからちょいとコレ、預かっといとくれ。ねえ、誰にも言うんじゃないよ。約束だよ」。スタタと逃げ去った佐藤友美を見るでもなく、大五郎はキリリとした表情で、お財布を持って棒立ちしているのでした。もちろん、後を追ってきた被害者や山内明たちにとっ捕まる大五郎。
「それはワシの紙入れだ。おのれ、小童」「なあぼうず。どんな姉ちゃんがこの紙入れをおめえに預けていった。おいちゃんに教えてくれ」。しかし、完全黙秘を貫く大五郎に、「こいつは臭えな。もしかしたら、お葉の身内かもしれません」と山内明は疑いの目を。ま、そりゃそうだ。よーし、公開敲き(たたき)をするぞぉ。
はい。まるでエルサレムの群集の前にイエスが曝されたように、群集の前に曝される大五郎。ほら、白状しないと叩いちゃうぞ。しかし、大五郎はギロリと睨むだけで、何も言おうとしませんよ。「この子は怯えもせぬ」「恐ろしく気丈な子だぜ」とみんながどよめいている中、執行人が棒を振り上げましたよ。と、その時、群集の中から佐藤友美が飛び出してきました。「お待ちくださいませ。あたしが早変わりのお葉です。どうか、その子を」。これには岡っ引きの山内明もニンマリ。「よく名乗りでたな、お葉。名乗りでたからにゃ、お上にもご慈悲というものがあるぜ」。しかし、ここで問題が。唯一の証人である大五郎があくまで口を割らないこと。「なあぼうず。おめえが紙入れを預かったのは、あのお姉ちゃんだな」「違う」「ぼうや、なぜ」「違う」。キリリとした表情で、「ちぃーがうっ」と言い続ける大五郎に、みんな困り顔です。えーと、どうする。うーん、叩くしかないかなあ。とりゃっ、ビシィーっ。とりゃっ、ビシィーっ。叩かれる大五郎の姿に、みんなドン引き状態。と、山内明は思いつきました。「お葉。てめえ紙入れをこの子に預けるとき、なんて言ったんだ」「ただ、預かっといとくれと。誰にも言うんじゃない。約束だよ、とも申しました」。ピーン、それだっ。この全員がドン引きの状態を脱するにはそれしかない。このぼうずは約束を守ろうと口を噤んでいるんだ。なーんてエライ子なんだろう。ねえ、みなさん。なんかよく分からないまま、帰ることを許される大五郎。もう、群集も拍手で送っちゃいますよ。パチパチ。あ、群集の中に満足そうな顔をした若山先生がいるのはヒミツです。
乳母カーに戻って、若山先生と合流した大五郎。「ちゃん」「……」。無言のまま大五郎を手をつないだ若山先生は、残った手で乳母カーを押しつつ、夕日の中を歩いていくのです。
ま、それはともあれ、大滝秀治ボイスに負けた若山先生は、荒れ寺の御堂で瞑想中。と、そこに色っぽい女がやってきたのです。「黒田藩、松丸君つき不知火」と名乗った女(安田道代)は、若山先生に鎖攻撃を仕掛けてきました。腕に、そして首に、鎖がからみつき、微妙にピンチな感じの若山先生。「なにゆえ挑まんとする。これほどのことをする理由、申されよ」。それに応えて三味線から五百両を取り出した安田道代は、驚く依頼を口にするのでした。「斬っていただきたいのは、五歳の御子、その父、その母」。さあ、子供を斬れるの?と挑発的な安田道代に若山先生は、低い声で答えます。
「我ら親子、共に選びし修羅の道なれば、六道四生順逆の境はもとより覚悟のうえ。冥府魔道に生きておる」。
しかし、まずは大滝秀治をどうにかしないといけませんね。ちょうど、大滝秀治と、そのお供たちは五六艘の舟を連ねて川を渡るところ。対岸にはお墨付き受け取りのため、柳生烈堂(大木実)が待ち構えており、今がラストかつベストチャンス。さっそく、着物を脱ぐ若山先生。髻を解いてザンバラになった髪、そして乳まで隠す下着を見ると、まるで太った水着ギャルみたいなのが、骨の髄まで笑えます。とまれ、乳母カーを川にドボンと入れた若山先生は大五郎に言います。「大五郎。冥府魔道に入る」。ざぶん。川に潜った若山先生は、そのまま潜水状態で、大滝秀治の舟の真下に。そして、巨大ガラス切りのような物体で、船底を丸く切りはじめました。ギーコ、ギーコ。その丸く切った穴の中心に座っていたのは大滝秀治。ちょうど底が抜けた瞬間、「良きかな、道を究めし者。良きかな、無門の関」とつぶやいた大滝秀治は、そのまま垂直に川に落ち、若山先生に刺し殺されるのです。
経筒を奪取した若山先生は、ピチピチとシャケが跳ねるように柳生と戦いつつ、冥府魔道からの脱出を図ります。しかし柳生烈堂だって負けてはいません。「おのれ、拝一刀を討ち取れ」。うわああああ。ワラワラと押し寄せる裏柳生のみなさん、しまった、かこまれた。このままじゃ。と、その時、面頬(戦国マスク)を付けた謎の騎馬隊が突っ込んできましたよ。「拝どの、ここは我らがお引き受け申す」。これがまた強いのなんの。ヤリを手にして、ザクザクと裏柳生のみなさんを突き殺していきますよ。思わず隠れていた烈堂はつぶやきます。「黒田面頬衆」。
お言葉に甘え、せっせと着物を着て、太った水着ギャルから子連れ狼に戻る若山先生。しかし、その隙に敵忍者が大事な経筒を奪ってしまいました。と、そこに忍者装束の安田道代が「拝さま、経筒はわたしが」と登場。シュタタタと敵忍者を追いかけていきます。頑張れよー。ちなみに、あれはスリかえた偽物だけど。
ということで、どこかの荒れ寺で若山先生がまったりしていると、天井裏から安田道代の声が聞こえてきました。「不知火でございます。黒鍬の後を追って、烈堂の宿所に参り、拝さま、鮮やかなお手並み、しかと見届けました。それにつき、今ひとつお願いがございます。事の仔細を問わずお聞き届けくださいますでしょうか」。まあ、翻訳すると、無駄足ふませやがって、言うこと聞けやコラってことですね。仕方ありません。「申されよ」と若山先生が答えると、天井から指示が飛びます。
「されば、そこにお持ちのお墨付き、お出しくださいませ」
はい出しました。
「お開きください」
はいよ、開いた。
と、そこに天井から謎の液体がしたたってきて、お墨付きの文字が、にじむわけでもなくあっという間に消えていくじゃありませんか。とりあえず安田汁と命名しておきますが、これは、いったい何の液体でしょうね。そして、最後に「拝さま、そのまま黒田にお持ちくださいませ」という声と共に、安田道代は安田汁をみやげに消えたのです。
と、そこに、今度は黒田面頬衆がやってきました。リーダー(須賀不二男)はお墨付きをくれと言い出します。さあ、困った。ちょっと前なら、お墨付きを渡して、ミッション完了だったんだけどな。安田汁のおかげで、今じゃお墨付きも単なる真っ白な紙になってしまいましたから、これを渡すわけにもいきません。仕方ない、安田道代が言ったとおり、これは自分で届けよう。
ばばーんと砂漠が映り、そこを馬で疾走する黒田面頬衆と若山先生。あ、もちろん乳母カーもソリをつけて、若山先生が引っ張っています。と、砂丘の向こうから、ギラギラと光が。うわっまぶしい。これは柳生のソーラ・システム。っていうか、みんなで刀で太陽光を反射させてるんですけどね。「拝どの、ここは我らが。いっときも早く黒田へ」。じゃあ、お言葉に甘えて。ハイヨー。パカラッパカラッ。
やってきました福岡城の大広間。左右には家臣が居流れ、中央には元藩主・黒田斉隆(加藤嘉)、松丸君こと実は姫君な5歳児、そして愛妾が並んでいます。「刺客子連れ狼こと拝一刀。これなるは一子、大五郎。ご当家ご依頼のもの、持参のうえ、ただいま推参仕った。お受け取り願いたい」と若山先生は折り目正しく挨拶をして、ついでにイヤミっぽく言います。「黒田ご藩主。松丸君はいずこにおわす」。家老(岡田英次)があわてて、「松丸君は御前に」とフォローしてみるものの、「それにござるは浜千代さま」と若山先生はフフンです。
まあ、そうなると、ああだこうだの後、「斬り捨てい」ってことになるわけで、お楽しみのチャンバラタイム。若山先生は華麗な剣さばきで、再び登場の志賀勝やらをバッサバッサと斬り捨てていきます。もう、イキオイ余って、胴体の輪切りとかもしちゃいますからね。まさに血まみれな感じ。最後には、リーダーの須賀不二男を倒し、ひと段落。ふう、今日もいい汗かいたぜ。
と、大広間でスプラッターな血まみれ大会が開かれている間、加藤嘉たちは、家老の岡田英次に案内され、御霊屋に逃げ込んでいました。さあ安心。と、そうではなかったようです。というのも、ここで家老は加藤嘉たちに切腹を「おすすめ」していますから。「とのっ」「いやだ、切腹はせんぞ」「殿、ご切腹を。なにとぞ、なにとぞ」。言葉のわりに、刀を持ってグイグイと腹に刺そうとしてくるから、真面目な家老はコワイ。「殿。お家のためでござる、なにとぞ」。と、そこに血まみれ大会を終えた若山先生も合流。あ、先生、介錯しちゃってください。こころえた。とりゃあ。加藤嘉の首がごろんごろん。浜千代姫と愛妾の首もごろんごろん。真面目な岡田英次は、丁寧に3つの首を並べて言うのです。「さすがは黒田候。名君でござった。立派にご切腹してお果てなされ申した」。
幽閉から解放されたホンモノの松丸君が見守るなか、乳母カーを押して去っていく若山先生。と、砂浜に着くと、そこに安田道代がいましたよ。ギロリ。安田道代を見た若山先生は言います。「不知火どの、陰腹を召されたな」。と、ここで念のため説明。陰腹とは、家臣が主君を諌めたりする時に、事前にこっそり自分の腹を切っておくこと。これで「私心のなさ」と「命がけ」であることを示すわけです。ま、それはともあれ、「拝さま。亡き殿のおあとに従い、これより黄泉の国へ、お供仕ります」という安田道代を残し、若山先生は小舟を漕ぎ出します。ギーコ、ギーコ。海に入って、それを見送っていた安田道代がくずおれると、海には真っ赤な血の色が広がるのでした。
単純に考えて、5人の刺客依頼人のエピソードは、連載漫画のネタ向きです。これなら、最低5回分は引っ張れるみたいな。また大五郎のエピソードも、唐突にとってつけた感じが否めません。そういった部分を除くと、このストーリーは、おどろくほど平板。拝一刀が依頼を受けた。斬った。終わり。なんですよね。
その分というか、出演者は多彩。佐藤友美と安田道代のダブルヒロインに始まり、大滝秀治、加藤嘉、内藤武敏、山内明など劇団民芸系の演劇人。そして東映の映画かと思うような、大木実、山城新伍、潮健児、志賀勝、天津敏といったメンバー。ついでに、ホンのちょい役で岡田英次まで出てくるんですから、これはどこのお正月ですか、って感じでした。
まあシリーズの中では、箸休め的な作品だと思っていただければ。
いくらおにぎりブログのインデックスはここ
いくらおにぎり日記はここ
子連れ狼 冥府魔道【期間限定プライス版】 [DVD]クリエーター情報なし東宝
おはなし
黒田藩のお世継ぎ騒動に巻き込まれる拝一刀(若山富三郎)。いっぽう、大五郎は大五郎で、思いっきりシバかれてしまい……。
若山富三郎版「子連れ狼シリーズ」の第5弾。サブタイトルの割には冥府魔道度の少ない作品です。というか、正確に言うと捨てネタを集めて、無理やり一本をでっち上げたような作品。個々のエピソードがバラバラな感じで、ちょっと残念。
ゴトゴトと乳母カーを押して歩いている拝一刀(若山富三郎)は、滝に打たれている修験者らしき男を見つけました。そして、男のものでしょうか、横に置いてある笠の中には、牛頭馬頭の描かれた布きれが。おお、これは子連れ狼を呼び出すヒミツのサインじゃありませんか。さっそく滝壺に降り、男に話しかける若山先生。
「卒爾ながら、その笠に下げたる牛頭馬頭の絵。子連れ狼をお探しか?」
男(戸浦六宏)はクルっと振り返り言います。「お手前が?」。「そう呼ばれておる」と若山先生が返事をした瞬間、戸浦六宏は斬りかかってきましたよ。しかし、若山先生の条件反射でサクっと斬りかえされてます。かなり弱めです。
「さ、さすがは子連れ狼こと元公儀介錯人、拝一刀どの。百両ござる。一殺、五百両と聞き及ぶ。刺客引き受け料の、これは5分の1。お受け取り願いたい」
「刺客依頼のための腕試しか」。そうそう、よくいるんです。無謀なチャレンジしてくるやつが。
「お手前を探し出すため、藩中の手練れ16名が、このように牛頭馬頭の絵をぶらさげて国元を発し、東海道および水路・海路に散ってござる。それがしは筑前、黒田家中にてあや、綾部右近と申す」
さらに、刺客引き受けの条件である「裏の事情」の説明も、残り4人の侍が若山先生に勝負を挑み、負けたら百両ずつ払って、説明するらしいです。それも、次の侍はあそこにいるよ!みたいな情報はゼロ。会えるかどうかは運しだい。勢い余って即死させたら、はいソレマデヨ。なんていうか、不確実すぎますよね。黒田家には、剣の手練れはいても、頭脳の手練れはいなかったんでしょうか。
ま、ともあれ目印になるという、オシャレな数珠ネックレスを渡して戸浦六宏は死に、若山先生は再び、ゴロゴロと乳母カーを押しながら旅を続けるのです。ゴロゴロ。ゴロゴロ。とある門前町にやってきた若山先生。寺院の塀に、ひとりの乞食がいますよ。もっとも、笠に牛頭馬頭の絵をぶら下げてますけど。これは、もしかして。チャリンと小銭を欠け茶碗に投げ入れると、案の定、乞食が話しかけてきました。「それがしは綾部右近と同じく、黒田藩近習頭、泉数馬と申す」。いや、どうみても、その顔は志賀勝。泉数馬なんてコジャレた名前が「まったく」似合ってないんですけど。ともあれ、そのカズマは伝書バトをカゴから離すと、「次なる刺客依頼人への連絡でござる」と言うのでした。ははあ、なるほど。手練れ16名のうち、志賀勝は単なる連絡要員なんですね。なるほど。
ということで、志賀勝から連絡をうけた刺客依頼人(石山律)が登場。「黒田家中、最上周助。未熟僭越ながら腕試しさせていただく。それがしに勝たれた場合は、その百両をお収めの上、お手数ながら数珠をかけられ、先に進まれい」「承知」。とりゃー、二刀流で斬りかかる石山律ですが、若山先生は得意の卑怯な手、刀投げを。えいっ。ひゅぅーグサっ。「筑前黒田五十二万石のご藩主は五歳の姫君でござる」「もし、このこと、ご公儀に知れればお家は断絶。姫を姫を、くっ」ガクっ。いや、姫をどうしろと。殺せばいいの?
夜、若山先生がたき火でトウモロコシを焼いていると、小柄(こづか)がパシュパシュと飛んできて、トウモロコシにぶっ刺さりました。「三人目の御仁か」と聞く若山先生に、男(内藤武敏)は答えます。「黒田家中、馬渡八郎と申す。百両はそれがしの懐中にござる。勝ち取られよ」。「承知」と言いつつ、ヤリを突き出す若山先生。うわっ、内藤武敏、一発でやられてるよ。やはり劇団民芸系ではアクションはムリだったか。
ま、それはともあれ、たき火に倒れこんだ内藤武敏は言います。「命が尽きるまでは、まだ間がござる。刺客依頼の裏の事情を息の絶えるまでお話いたそう」。いや、それより燃えてます。体が燃えてますってば。そんな燃える男、内藤武敏が語るのは、こんな話。元藩主が側室を寵愛し、どうしても、側室との間に生まれた、まだ五歳の子に後を継がせたくなった。と、ここまではよくある話だけど、問題は正妻との間にすでに嫡男がおり、側室との子は娘だったこと。そのうえ、元藩主は近所のお寺のお坊さん・慈恵和上に、娘を藩主にするというお墨付きを渡してあるとか。いやもう、自爆もいいとこな行動です。なにがしたいのか分からない。
さらに旅を続けている若山先生。今度は、向こうから男(山城新伍)が歩いてきましたよ。すわ、こいつが刺客依頼人、と思ったら、「お待ちなさい。この先の池に物騒な浪人がおりやす。箱車を押した子連れの浪人を待ち伏せているらしいんで。もし、旦那を狙ってるんなら、及ばずながら、あっしが助っ人させてもらいます」とか親切なことを言っています。おかしいなあ。この山城新伍は単なる親切な通行人なのかなあ。
山城新伍の情報どおり、池のほとりに刺客依頼人(天津敏)が待っていました。「黒田家中、菊池弥門と申す。ご貴殿、元公儀介錯人、拝一刀どのと申さば水鴎流の名手と聞き及ぶ。その奥義たる波切りの太刀なるものを見せてはいただけまいか。この目でしかと見届けておきたいのでござる」。しょうがないなあ。ちょっとだけだよ。ずぶずぶと池に入っていく二人。さあ、抜刀します。上段に構える天津敏に対し、徐々に腰を沈めていく若山先生。右手に持った刀も、今や水の中。と、天津敏が斬りかかろうとした瞬間、意外や意外、若山先生の刀が左側から飛び出しました。不意をつかれて斬られる天津敏。そう、波切りの太刀とは水中で、こっそり刀を持ち帰るという、なんていうかトホホな奥義だったみたいです。「お墨付きは慈恵和上が……」と天津敏は苦しい息のもと、語りだします。その語るところによれば、元藩主が尊崇していた慈恵和上とは、実は幕府のスパイマスター。そして鎌倉にある寺の落慶法要を名目に、すでにお墨付きを持って江戸に向っているとか。
ブクブクと天津敏が沈んでいくと、そこに、親切な山城新伍がやってきましたよ。「お疲れでしょう。どうです、良かったらお茶でも」「いただこう」。あ、お茶を飲んだ若山先生が、ズッテーンとひっくり返ってます。うむ、あまりにお約束な展開だ。山城新伍は笠から折りたたまれていた牛頭馬頭の絵を「わざわざ」引っ張り出し、「いかに拝一刀どの。やはり隙がござったな。キレンゲツツジとトリカブトの猛毒を混じた茶を飲んだ以上、もはや助かるすべはない。われらあらゆるすべで貴殿を試す所存でござった、お許しくだされ。筑前黒田家中、小石勘兵衛、とどめを仕る」グサッ。と、刺されているのは山城新伍の方。そして若山先生はプッとお茶を吐き出しています。さすがです。
「じ、慈恵和上を斬って、お墨付きを。お墨付きは慈恵和上が手に持つ経筒の中に」くわっ。
ということで、旅の途中の慈恵和上を追って、とある大寺のある町にやってきた若山先生。さっそく、慈恵和上がお経をあげているところに忍び込みます。刀のつかを握り、「お命頂戴仕る」と言った瞬間、しかし、BGMがヘンなサイケサウンドに。ぬぬぬ、刀が抜けないっ。と、慈恵和上(大滝秀治)が、いかにも大滝秀治な感じで言い出しましたよ。
「無であるものを斬ることはできぬ。主観と客観をひとつにし、己を忘れ、無と己をひとつになし、内外打成の一片となったこの身を斬ることはできぬ。仏に会うては仏を殺し、父母に会うても、これを殺す。しかして無じゃ。ただ刺客道の無門関たらん」。はあ?なに言ってんの、って感じなんですけど、とにかく大滝秀治の、あの錆びたような声で言われると、なんかスゴイ気がしてくるのが不思議です。
そんなこんなで、若山先生がスゴスゴと逃げ帰っている間、大五郎は乳母カーを抜け出し、町の探索に励んでいます。折しも夏祭りの真っ最中。ろくろ首などの見世物、金魚釣り、子供の喜ぶもの満載です。と、ここでもう一人というか二人。夏祭りを満喫している者がいました。江戸から来た美貌の女スリ、早変わりのお葉(佐藤友美)と、その子分、ほくろの留吉(潮健児)です。あちらこちらで財布をスリとっては、後ろ手で、子分の潮健児に渡していく佐藤友美。これなら、仮に騒がれても肝心の財布を持っていないんだから、安心というものです。しかし、この町には、そんな佐藤友美をはるばる江戸から追ってきた、名岡っ引き・心の字の洗蔵(山内明)もいたのでした。って、この映画は、何の映画だっけ。
さて、快調にスリまくっている佐藤友美ですが、侍からスった財布を潮健児に渡そうと思ったら、アレレいないわ。そう、常に背後にいて財布を受け取るはずが、立ちションベンをしてて、いなかったのです。むきー。さらに間の悪いことに、侍がスラれたことに気づき、「あの女、スリだあ。スリだあ」と叫びだしました。その声を聞きつけ、岡っ引きの山内明までダッシュしてきます。ど、ど、ど、どうしよう。路地を逃げまくりながら、あたりを見回す佐藤友美。あっ、あんなところに子供が。それもトロそうなのが一匹。早速、大五郎に駆け寄り財布を握らせ、佐藤友美は言います。「坊や、イイ子だからちょいとコレ、預かっといとくれ。ねえ、誰にも言うんじゃないよ。約束だよ」。スタタと逃げ去った佐藤友美を見るでもなく、大五郎はキリリとした表情で、お財布を持って棒立ちしているのでした。もちろん、後を追ってきた被害者や山内明たちにとっ捕まる大五郎。
「それはワシの紙入れだ。おのれ、小童」「なあぼうず。どんな姉ちゃんがこの紙入れをおめえに預けていった。おいちゃんに教えてくれ」。しかし、完全黙秘を貫く大五郎に、「こいつは臭えな。もしかしたら、お葉の身内かもしれません」と山内明は疑いの目を。ま、そりゃそうだ。よーし、公開敲き(たたき)をするぞぉ。
はい。まるでエルサレムの群集の前にイエスが曝されたように、群集の前に曝される大五郎。ほら、白状しないと叩いちゃうぞ。しかし、大五郎はギロリと睨むだけで、何も言おうとしませんよ。「この子は怯えもせぬ」「恐ろしく気丈な子だぜ」とみんながどよめいている中、執行人が棒を振り上げましたよ。と、その時、群集の中から佐藤友美が飛び出してきました。「お待ちくださいませ。あたしが早変わりのお葉です。どうか、その子を」。これには岡っ引きの山内明もニンマリ。「よく名乗りでたな、お葉。名乗りでたからにゃ、お上にもご慈悲というものがあるぜ」。しかし、ここで問題が。唯一の証人である大五郎があくまで口を割らないこと。「なあぼうず。おめえが紙入れを預かったのは、あのお姉ちゃんだな」「違う」「ぼうや、なぜ」「違う」。キリリとした表情で、「ちぃーがうっ」と言い続ける大五郎に、みんな困り顔です。えーと、どうする。うーん、叩くしかないかなあ。とりゃっ、ビシィーっ。とりゃっ、ビシィーっ。叩かれる大五郎の姿に、みんなドン引き状態。と、山内明は思いつきました。「お葉。てめえ紙入れをこの子に預けるとき、なんて言ったんだ」「ただ、預かっといとくれと。誰にも言うんじゃない。約束だよ、とも申しました」。ピーン、それだっ。この全員がドン引きの状態を脱するにはそれしかない。このぼうずは約束を守ろうと口を噤んでいるんだ。なーんてエライ子なんだろう。ねえ、みなさん。なんかよく分からないまま、帰ることを許される大五郎。もう、群集も拍手で送っちゃいますよ。パチパチ。あ、群集の中に満足そうな顔をした若山先生がいるのはヒミツです。
乳母カーに戻って、若山先生と合流した大五郎。「ちゃん」「……」。無言のまま大五郎を手をつないだ若山先生は、残った手で乳母カーを押しつつ、夕日の中を歩いていくのです。
ま、それはともあれ、大滝秀治ボイスに負けた若山先生は、荒れ寺の御堂で瞑想中。と、そこに色っぽい女がやってきたのです。「黒田藩、松丸君つき不知火」と名乗った女(安田道代)は、若山先生に鎖攻撃を仕掛けてきました。腕に、そして首に、鎖がからみつき、微妙にピンチな感じの若山先生。「なにゆえ挑まんとする。これほどのことをする理由、申されよ」。それに応えて三味線から五百両を取り出した安田道代は、驚く依頼を口にするのでした。「斬っていただきたいのは、五歳の御子、その父、その母」。さあ、子供を斬れるの?と挑発的な安田道代に若山先生は、低い声で答えます。
「我ら親子、共に選びし修羅の道なれば、六道四生順逆の境はもとより覚悟のうえ。冥府魔道に生きておる」。
しかし、まずは大滝秀治をどうにかしないといけませんね。ちょうど、大滝秀治と、そのお供たちは五六艘の舟を連ねて川を渡るところ。対岸にはお墨付き受け取りのため、柳生烈堂(大木実)が待ち構えており、今がラストかつベストチャンス。さっそく、着物を脱ぐ若山先生。髻を解いてザンバラになった髪、そして乳まで隠す下着を見ると、まるで太った水着ギャルみたいなのが、骨の髄まで笑えます。とまれ、乳母カーを川にドボンと入れた若山先生は大五郎に言います。「大五郎。冥府魔道に入る」。ざぶん。川に潜った若山先生は、そのまま潜水状態で、大滝秀治の舟の真下に。そして、巨大ガラス切りのような物体で、船底を丸く切りはじめました。ギーコ、ギーコ。その丸く切った穴の中心に座っていたのは大滝秀治。ちょうど底が抜けた瞬間、「良きかな、道を究めし者。良きかな、無門の関」とつぶやいた大滝秀治は、そのまま垂直に川に落ち、若山先生に刺し殺されるのです。
経筒を奪取した若山先生は、ピチピチとシャケが跳ねるように柳生と戦いつつ、冥府魔道からの脱出を図ります。しかし柳生烈堂だって負けてはいません。「おのれ、拝一刀を討ち取れ」。うわああああ。ワラワラと押し寄せる裏柳生のみなさん、しまった、かこまれた。このままじゃ。と、その時、面頬(戦国マスク)を付けた謎の騎馬隊が突っ込んできましたよ。「拝どの、ここは我らがお引き受け申す」。これがまた強いのなんの。ヤリを手にして、ザクザクと裏柳生のみなさんを突き殺していきますよ。思わず隠れていた烈堂はつぶやきます。「黒田面頬衆」。
お言葉に甘え、せっせと着物を着て、太った水着ギャルから子連れ狼に戻る若山先生。しかし、その隙に敵忍者が大事な経筒を奪ってしまいました。と、そこに忍者装束の安田道代が「拝さま、経筒はわたしが」と登場。シュタタタと敵忍者を追いかけていきます。頑張れよー。ちなみに、あれはスリかえた偽物だけど。
ということで、どこかの荒れ寺で若山先生がまったりしていると、天井裏から安田道代の声が聞こえてきました。「不知火でございます。黒鍬の後を追って、烈堂の宿所に参り、拝さま、鮮やかなお手並み、しかと見届けました。それにつき、今ひとつお願いがございます。事の仔細を問わずお聞き届けくださいますでしょうか」。まあ、翻訳すると、無駄足ふませやがって、言うこと聞けやコラってことですね。仕方ありません。「申されよ」と若山先生が答えると、天井から指示が飛びます。
「されば、そこにお持ちのお墨付き、お出しくださいませ」
はい出しました。
「お開きください」
はいよ、開いた。
と、そこに天井から謎の液体がしたたってきて、お墨付きの文字が、にじむわけでもなくあっという間に消えていくじゃありませんか。とりあえず安田汁と命名しておきますが、これは、いったい何の液体でしょうね。そして、最後に「拝さま、そのまま黒田にお持ちくださいませ」という声と共に、安田道代は安田汁をみやげに消えたのです。
と、そこに、今度は黒田面頬衆がやってきました。リーダー(須賀不二男)はお墨付きをくれと言い出します。さあ、困った。ちょっと前なら、お墨付きを渡して、ミッション完了だったんだけどな。安田汁のおかげで、今じゃお墨付きも単なる真っ白な紙になってしまいましたから、これを渡すわけにもいきません。仕方ない、安田道代が言ったとおり、これは自分で届けよう。
ばばーんと砂漠が映り、そこを馬で疾走する黒田面頬衆と若山先生。あ、もちろん乳母カーもソリをつけて、若山先生が引っ張っています。と、砂丘の向こうから、ギラギラと光が。うわっまぶしい。これは柳生のソーラ・システム。っていうか、みんなで刀で太陽光を反射させてるんですけどね。「拝どの、ここは我らが。いっときも早く黒田へ」。じゃあ、お言葉に甘えて。ハイヨー。パカラッパカラッ。
やってきました福岡城の大広間。左右には家臣が居流れ、中央には元藩主・黒田斉隆(加藤嘉)、松丸君こと実は姫君な5歳児、そして愛妾が並んでいます。「刺客子連れ狼こと拝一刀。これなるは一子、大五郎。ご当家ご依頼のもの、持参のうえ、ただいま推参仕った。お受け取り願いたい」と若山先生は折り目正しく挨拶をして、ついでにイヤミっぽく言います。「黒田ご藩主。松丸君はいずこにおわす」。家老(岡田英次)があわてて、「松丸君は御前に」とフォローしてみるものの、「それにござるは浜千代さま」と若山先生はフフンです。
まあ、そうなると、ああだこうだの後、「斬り捨てい」ってことになるわけで、お楽しみのチャンバラタイム。若山先生は華麗な剣さばきで、再び登場の志賀勝やらをバッサバッサと斬り捨てていきます。もう、イキオイ余って、胴体の輪切りとかもしちゃいますからね。まさに血まみれな感じ。最後には、リーダーの須賀不二男を倒し、ひと段落。ふう、今日もいい汗かいたぜ。
と、大広間でスプラッターな血まみれ大会が開かれている間、加藤嘉たちは、家老の岡田英次に案内され、御霊屋に逃げ込んでいました。さあ安心。と、そうではなかったようです。というのも、ここで家老は加藤嘉たちに切腹を「おすすめ」していますから。「とのっ」「いやだ、切腹はせんぞ」「殿、ご切腹を。なにとぞ、なにとぞ」。言葉のわりに、刀を持ってグイグイと腹に刺そうとしてくるから、真面目な家老はコワイ。「殿。お家のためでござる、なにとぞ」。と、そこに血まみれ大会を終えた若山先生も合流。あ、先生、介錯しちゃってください。こころえた。とりゃあ。加藤嘉の首がごろんごろん。浜千代姫と愛妾の首もごろんごろん。真面目な岡田英次は、丁寧に3つの首を並べて言うのです。「さすがは黒田候。名君でござった。立派にご切腹してお果てなされ申した」。
幽閉から解放されたホンモノの松丸君が見守るなか、乳母カーを押して去っていく若山先生。と、砂浜に着くと、そこに安田道代がいましたよ。ギロリ。安田道代を見た若山先生は言います。「不知火どの、陰腹を召されたな」。と、ここで念のため説明。陰腹とは、家臣が主君を諌めたりする時に、事前にこっそり自分の腹を切っておくこと。これで「私心のなさ」と「命がけ」であることを示すわけです。ま、それはともあれ、「拝さま。亡き殿のおあとに従い、これより黄泉の国へ、お供仕ります」という安田道代を残し、若山先生は小舟を漕ぎ出します。ギーコ、ギーコ。海に入って、それを見送っていた安田道代がくずおれると、海には真っ赤な血の色が広がるのでした。
単純に考えて、5人の刺客依頼人のエピソードは、連載漫画のネタ向きです。これなら、最低5回分は引っ張れるみたいな。また大五郎のエピソードも、唐突にとってつけた感じが否めません。そういった部分を除くと、このストーリーは、おどろくほど平板。拝一刀が依頼を受けた。斬った。終わり。なんですよね。
その分というか、出演者は多彩。佐藤友美と安田道代のダブルヒロインに始まり、大滝秀治、加藤嘉、内藤武敏、山内明など劇団民芸系の演劇人。そして東映の映画かと思うような、大木実、山城新伍、潮健児、志賀勝、天津敏といったメンバー。ついでに、ホンのちょい役で岡田英次まで出てくるんですから、これはどこのお正月ですか、って感じでした。
まあシリーズの中では、箸休め的な作品だと思っていただければ。
いくらおにぎりブログのインデックスはここ
いくらおにぎり日記はここ
